7年前、私はパリにいた。
知り合いが滞在していたレジデンス施設を1ヶ月間だけ間借りして、せっかくの海外もあまり外出することなく絵を描いていた。
若い頃は怖いもの知らずというけれど、あの時の私はいろんなことが不安で怖い物だらけ。施設内の森を散歩するだけで、引きこもっているのもどうかと思い、なんとなくドイツへ行った。そこは薄暗く、すべての景色はグレーでとても魅力的だった。陰気な自分と共鳴したのかもしれない。
私は今、ドイツにいる。マティスがデザインしたロザリオ教会、ガウディのカサ・バトリョ、ギザのピラミッド、スイスのユングフラウヨッホ…
1年の滞在の間にできるだけ多くを見て吸収したいと、両手で数えきれないほど様々な場所を訪れている。
例のレジデンス施設にも再び足を運んだ。それまではすっかり忘れていたが、懐かしさと共に手探りで進もうとする、か細い自分を思い出した。
今の私は、いわゆる怖いもの知らずで、人間らしくなってきたと思う。
でも、そうなれたのは、あの時の私が自分に負けずに頑張ったからだ。
タイムスリップできたら褒めてあげたい。
ありがとう、7年前の私。
2025年11月 やましたあつこ